
研究科の設置に至るまでの経過
これは本研究科が設置される際にどのような構想がたてられ、また設立から現在に至るまでの過程を、特に設立初期の頃を中心に記したものです。
設置構想
かつて薬学系の学部・大学院では「薬学教育」は薬剤師養成を主な目的に考えられており、中部地区には薬学系の大学(名古屋市立大学、名城大学等の私大)も多く存在するためか、旧帝国大学でありながらも本学には薬学部・薬学系大学院が設置されていなかった。しかし先端的医療の発展、国内の少子高齢化問題や世界レベルでの感染症拡大など健康維持や疾患対応に迫られる状況が増え、これまでとは「薬」への考え方が激変することとなり、学問としての薬学・創薬も新たな視点を加えて再構築する必要が出てきた。
このような社会的要請を踏まえ、名古屋大学は、既存部局が有している潜在的な研究基盤や教育システムを基に、新しい研究科の設立を考えるに至った。すなわち、薬が「どのように合成され」「どのように生体成分に作用し」「どのような効果を発揮するのか」など、先端的な創薬科学の発展に貢献できる研究者の養成をめざすことになった。
当初は名古屋大学内の理・工・農などを基盤に基礎科学を志向する研究科と、医学研究科による臨床応用研究を志向した研究科の2つの研究科を並列して設置し、多角的・相補的に創薬科学研究教育を展開する形の大学院がデザインされていた。当初はまた、臨床医学系の観点からの薬学研究者の養成をめざす方向での大学院も計画が進められていた。しかしながら、基礎科学を中心にした新しい薬学研究教育の必要性がより喫緊に立ち上げる組織として考えられ、現在の「基盤創薬学専攻」の設置を大学としては進めた。このような具体的なスタートを切れたのが2008年度の頃である。また、研究科の名称「大学院創薬科学研究科」は、当時としては初めてであったと認識している。
大学院設置申請
2008年度~2009年度、大学本部では濵口道成総長のもと、山本一良副総長、また当時総長補佐で後の副総長かつ初代の研究科長も務められた松下裕秀副総長と総長補佐の坂神洋次総長補佐ら、多くの執行部の先生方が中心となって全体構想を考えられた。具体的な研究科のデザイン案を進めるべく、創薬に関わる領域の基盤分野を担うという視点で、理学・工学・生命農学を中心とする具体的なメンバー人選が本部の方で進められた。その後カリキュラム案作成や学生定員を含めた大学院設置申請の書類づくりが、その後教員として予定されるメンバー数人によって鋭意行われた。学生定員についても、他部局からのご理解を得ながら、必要な定員分を確保する支援を頂いた。
一般に大学の学部・大学院の新規な創設については文部科学省において専門委員で構成される「大学院設置審議会」での厳正な審査と承認が必要である。この際には、十分な設置理念のもとでの教員人事や教育カリキュラム計画がなされていることを認められて初めて、必要な予算措置を伴って設置が認められる。
修士課程の研究教育課程のデザインとして、初めて具体的な案をもって文部科学省訪問が行われたのは2009年の年末頃で、本部と現所属の教員間での研究教育の方針検討が、現在の研究科の教育システムの礎を作る良い機会になったと言える。1年以上の期間をかけて現在の講座構成および教育課程など研究科の骨組みが設定され、研究科の中心目標となるキーワードである「多分野融合」が生まれ、「創薬科学実習(大学院生に体験実習をさせるところはあまりない)」「広域融合科目」「薬学倫理特論」など、従来の薬学教育では行なわれてこなかった独自の教育カリキュラムが考案されて現在に至っている。
また、研究科設置と併せて、タンパク質の構造解析学に焦点をあてて最先端科学を研究する「細胞生理学研究センター」が大学内に設置された。ここでは藤吉好則元教授(当時京大教授)を中心に設置されて、大学院教育課程においては本研究科に所属しつつ運営がスタートすることとなった。
大学院設置認可
2011年8月には審査の予備的な結果が示され、本部の先生方や予定教員と事務方が一体となって構想を検討して申請書作成にあたり、設置が認められるに至った (2011年10月)。
12月には大学院入試が行われ、第一期生として、28名の入学者が決まり、翌年度の体制が整った。なお、初代の研究科長には松下裕秀副総長が1年の任期で就任した。
なお設立案の策定から奔走された前述の坂神洋次先生(生命農学・総長補佐)におかれては、創薬科学研究科開設直前の3月に、ご病気により急逝されたことを付記しておきたい。
当初は、各研究分野は元部局や工学部建物の一部を借りた形で研究室の設営が行われた。また、申請・認可されたのは修士課程であり、直ちに博士後期課程の設置申請や研究科としての建物(創薬科学研究館)の開設申請書の作成も進められた。
設置後の経緯
設置後は、研究科としての建物(創薬科学研究館)が完成に至り、研究分野の体制や入試のあり方、講義が見直されることと並行し、いくつかの研究や教育のプロジェクトにも関わって今日に至っている。
その結果、これまで350名を超える修士課程修了者、71名の学位取得者を輩出するに至りました(2025年3月末現在)。
創薬科学研究館の完成
私学等の学部・大学院設置と異なり、国公立大学の場合には、仮に大学院が設置されたとしても、そのための施設(建物・設備)はまた別の予算枠で獲得する必要がある。そのため、2012年に研究科がスタートした時点では、まだ研究科としての建物は計画も含めてまったくない状況であった。建物のない期間、各研究分野は元々所属していた部局のご支援を頂きながら、研究教育をする場所を提供頂いた。この場をお借りして、理学・生命農学・工学の各研究科には研究科として心からお礼を申し上げたい。
従って大学院の設置認可と前後して、各教員からの計画を基に、ただちに研究科としてまとまった建物の計画立案が行われた。全国的には大震災の後でもあるため、震災対策や安全対策が重視され、大学関連の新規な建物の建設が全国的には滞る中でも認めて頂いたことは、研究科として心に留めなければならない。
2015年8月に創薬科学研究館が完成し、各研究分野が新しく研究室を立ち上げることができた。6階建てで総面積6720平方メートル、先端的な機器を備えた共通室も備わったうえ、9つの各研究分野が一つ屋根の下に集い新たに教育・研究をスタートした。
なお同年には、建物の完成を記念した講演会が催された(2015年3月)。この時の招待講演者として大村智先生(北里大学特別栄誉教授)と長田重一先生(大阪大学教授)をお招きして講演頂いた。なおその年に講演者の大村先生はノーベル医学生理学賞を受賞され、受賞後に記念講演を行って頂くこととなった。
設立から現在に至るまで
創薬科学研究館に各研究分野が集まったことで、講義や事務的な煩雑さも減り、設置された先端的な共同機器の活用や研究室間の交流など、あらゆる面で活発な教育研究活動が進むことになった。
この間、本学のみならず全国の他大学(国公私立)からの入学者があり、薬学に限らず、理学・農学・工学の異なる分野の学生を教育することができている。2013年度に修士修了生第一期生、2016年度に博士後期課程の修了生13名を輩出した。その後も先述のとおり、多くの修了生がこの研究科を巣立っている。本ホームページにも記載されているとおり、修了後の進路としては、大学や研究機関、企業として製薬企業を始め、医療関係、食品、化学分野に、広く全国にわたって従事し活躍されている。
研究教育については、その後、カリキュラムの一部改変を行いつつ、当初よりめざした先端的な創薬科学を修得させることができていると自負している。企業からの研究者による講義やセミナーも高い頻度で行い、将来的な産学連携に対応できる人材の育成も心掛けている。
これらと並行して博士後期課程に進む学生の支援として下記事業に研究科として参画している。2019年度から卓越大学院・トランスフォーマティブ化学生命融合研究大学院プログラム(GTR)に、2020年度からは情報・生命医科学コンボリューショングローカルアライアンス(CIBoG)に加わり、他部局大学院との密な連携の下で、多くの大学院生が博士後期課程までの5年一貫教育プログラムを受けることができている。
創薬を推進する研究を主な連携目的として、2024年度からは本学医学系研究科や岐阜大学との連携拠点(COMIT)にも参画しており、より一層の研究環境の充実が図られている。
(文責:人見 2025)
歴代教員一覧
研究科長 (数字は年度)
2012~ 松下裕秀
2013~ 人見清隆
2017~ 饗場浩文
2021~ 廣明秀一
2025~ 山本芳彦
所属した教員一覧(太字は在籍している教員)
有機合成化学 分野
(北村教授退任後、ラボの位置づけとしてはプロセス化学分野へ引き継がれた)
北村 雅人 教授 (2012~2022)
下川 淳 助教 (2012~2017)
天然物化学 分野
福山 徹 教授・特任教授 (2012~2016)
横島 聡 教授 (2017~:准教授 2012~)
藤間 達哉 助教 (2014~2018)
西山 義剛 助教 (2018~2022)
梅窪 成祥 助教 (2022~)
有機合成化学 分野
山本 芳彦 教授 (2012~)
渋谷 正俊 准教授 (2021~2023:講師 2012~2021)
安井 猛 准教授 (2025~:助教2017~2025)
プロセス化学 分野
布施 新一郎 教授 (2019~)
増井 悠 助教 (2021~2024)
山崎 直人 助教 (2023~)
分子微生物学 分野
饗場 浩文 教授 (2012~)
大塚 北斗 助教 (2012~)
島崎 嵩文 助教 (2018~)
細胞生化学 分野
人見 清隆 教授 (2012~)
辰川 英樹 助教 (2012~)
辻 徳治 助教 (2021~)
細胞分子情報学 分野
加藤 竜司 准教授 (2012~)
蟹江 彗 助教 (2012~2021)
田中 健二郎 助教 (2022~)
細胞薬効解析学 分野
赤池 昭紀 教授 (2012 ~2016)
小坂田 文隆 准教授 (2017~:講師 2014~2016)
森本 菜央 助教 (2017~2020)
竹内 遼介 助教 (2021~)
構造分子薬理学 分野
廣明 秀一 教授 (2012~)
兒玉 哲也 准教授 (2012~)
天野 剛志 助教 (2012~2014)
日比野 絵美 助教 (2022~)
構造生理学 分野
藤吉 好則 教授・特任教授 (2012~2016)
大嶋 篤典 教授 (2017~:准教授 2012~2017)
阿部 一啓 准教授 (2015~2023:助教 2012~2015)
入江 克雅 助教 (2014~2020)
田中 健太郎 助教 (2021~2023)
渡邉 正勝 准教授 (2025~)
佐久間 航也 助教 (2024~)
企業との連携で、限定的な期間で以下の研究室を設置した
実践創薬科学 分野
大森 謙嗣 特任教授 (2013~2017)
下村 猛 特任准教授 (2013~2015)
新薬創成化学 分野
森田 幹雄 特任准教授 (2015~2017)
野口 洋英 特任准教授 (2015~2017)
山岸 竜也 特任助教 (2015~2017)