近年、高齢化社会の到来に加え、生活習慣病、腫瘍、新興感染症なども急速に増加してきており、先進創薬・医学が果たす役割の重要性はますます高まっている。一方、製薬企業における従来型創薬研究の限界により、新薬の創出は縮小傾向にあり、創薬を通じた社会安定化に資するためには、新薬を創出する科学技術力の再活性化を促進し、製薬産業が抱える問題点を解決する先導的研究者の育成が急務である。
創薬とは、「薬学や医学、化学及び生物工学などの研究開発領域において、薬剤の発見や設計等のプロセスを経て、新たな医薬品が製品となるまでの一連の過程」と定義される。そこには、薬理学や薬剤学などの薬学固有の領域に加えて、医薬品の設計合成に関わる有機合成化学、疾病や薬効の解析の基礎となる生命科学、タンパク質の構造や医薬品との相互作用を解析する分子構造学といった基礎科学を含む広領域の研究・教育が深く関わっている。従って、創薬科学には、薬学のみならず、理学、工学、農学、医学といった多様な学術分野を総合した教育・研究の基盤形成が極めて重要である。
名古屋大学は、理学・工学・農学部の理系学部を舞台に、天然物化学、有機合成化学分野及び、生命科学分野で世界に伍して最先端の研究成果を上げてきた基盤研究力を持っている。即ち本学には、創薬を基礎科学の発展から支える高度な専門業績が確保されており、次世代創薬という社会的要請を満たす新しい人材育成の土台がある。従って、新たな薬学教育の拠点として本学に創薬科学研究科を設置することにより、これまで個々に発展してきた理系学術分野を融合し、その研究基礎力の実績を十分に活用することに加え、独自の横断的な多分野融合創薬学教育・研究が可能となる。
このような新しい教育目的を達成し、次世代創薬を先導する人材の輩出を理念として、2012年4月本学において大学院創薬科学研究科が創設された。本研究科では「多分野に跨る学術基盤を融合した高い研究開発能力を備え、広い視点から次世代創薬を先導する人を育てる」ことを大学院教育の基本方針として掲げ、全学共通の教育目的と学位に照らして設定した『創薬科学研究者としての基盤力』、『実践的融合力』、『高度な専門力』を3つの教育目標としている。この教育理念・教育目標を実現するため,理学・工学・農学・薬学の学術分野を融合した特長ある多分野融合型教育課程を編成し、学内外から幅広い間口で受け入れた学生に対して理・工・農学に関わる基盤分野と、化学物質としての医薬品とその生体・生命との関わりをバランスよく教育する融合型の創薬科学教育を実施することを教育理念としている。