からだが何らかの理由によって正常に働けなくなった状態が疾病とよばれ、その原因はインフルエンザのように自分ではない異物であったり、ガンや糖尿病のように自分自身の機能異常であったりします。「くすり」は、この機能異常を正常に戻そうとするからだ本来の力を「手助けする化学物質*」です。「創薬研究」とは、このくすりを創り・より深く理解するための研究のことで、「命を陰から支え、生活を豊かにする」ことを目標にした希望にあふれた研究です。 この研究の基盤となる創薬科学は、ヒト(生物)と化学物質(化学)をつなぐ(物理・情報)学問を横断した極めて複雑で高度な学問です。そのため今では、有機化学や生化学,生物物理化学、分子生物学、遺伝子工学、細胞生物学、計算科学・情報工学、さらには材料科学にいたる実に幅広い知識の融合が必要不可欠になってきました。もちろん世界中の研究者達と切磋琢磨して進歩する創薬では、英語は欠かせません。 とはいえ、この知識の融合を1人で完璧にやろうとしても非効率です。それぞれの高度な専門知識をもった研究者が知識を出し合って、ひとつの目標に向かうことができればそれを解決するための知識の幅と奥行きは無限に広がると私たちは考えます。 言い換えると、自分が得意とする科目(専門)で勝負し、同時に、別の科目が得意な専門家と対等に議論出来るだけの最低限の知識が必要、という事になります。好きなものは苦にならずにのめり込めるし、本当にやりたいことがあれば嫌いなものも、まあ出来ますよね。 「どうしてあんな病気になるのだろう」「どうしてあの病気は治らないのだろう」「くすりの開発に携わりたい」と前向きに物事を捉え、熱意あふれるみなさん、化学・生物・物理・数学・国語に英語、そして技術に情報処理、好き嫌いせずに貪欲に勉強しましょう。役に立たないものはありません! *インスリンのように生体成分を薬とする場合もあります。
名古屋大学大学院創薬科学研究科(名大創薬)は、「薬を創るための基礎研究」を通じて、研究者や技術者*を育成するための大学院です。現在の名大創薬には、大きく分類すると、なぜ病気になるのか・どうしたら健康になれるかを究明する研究室、そこから見つかった薬の標的となる生体分子の構造と機能を分子レベルで解き明かす研究室、そして、その標的にうまく作用する化合物を設計したり化学合成したりする研究室があります。名大創薬はこうした研究体制で密に連携しながら、薬となるシーズを見つけ出すまでの基礎研究で世界を牽引していきます。 *くすりを正しく使用するための専門家である薬剤師の教育は行いません。
名大創薬は大学院のみの構成で、学部をもちません。そのため、大学受験では名大創薬に入学することができません。では、名大創薬で学ぶにはどうすれば良いのでしょうか。 名大創薬へ進学するための最も主要な道は、名古屋大学の理学部・工学部・農学部で4年間みっちり勉学に励み、そのうえで大学院創薬科学研究科を受験・入学することです。各学部ではその学部ならではの講義や実習が4年生になるまでの間に提供されていて、それが学部横断型の幅の広い創薬科学を名大創薬で本気で学ぶための武器になります。また、理学部化学科、理学部生命理学科、工学部(有機・高分子化学専攻・生命分子工学専攻・マテリアル工学科)そして農学部生命農学研究科に所属する学部4年生は創薬科学研究科の研究室で卒業研究を実施する機会がある*ため、いち早く創薬研究に触れることができます。 名大創薬の入学試験はとても狭い関門ではありますが、間違いなく門戸は開いています。大学に入ってからも勉強する癖を決して捨てず、大学院まで持って来て下さい。研究者を目指すみなさんには一生の宝物になります。 また、他大学の理系学部を卒業しても名大創薬で学ぶチャンスはもちろん設けています。 名大創薬では、毎年5月に大学院説明会を実施しています。説明会への参加に制限はありませんので、まずは第一歩を踏み出してみるのも良いかもしれません。 *各学部との協議により年度ごとに決まるため確約出来るものではありません.
創薬に限った事ではありませんが、高校や大学と大学院とでは全く違う事があります。それは、高校や大学は、知識や技術を身につけて如何に社会に貢献するかを考える場であるのに対して、大学院はこれまでにだれも解いた事の無い問題に挑戦し、自らが実験する事で答えを導き出していくところだと言う事です。思い通りにいかずに年単位で失敗が続くこともあります。しかし同時に、世界中の誰も手にした事の無い新しいものを世界で初めて手に入れることができる夢に満ちた場所でもあります。そして創薬科学研究科には人類の健康に貢献できる大きなチャンスがあります。さあ、次世代を担う若き諸君、私たちとともに名大ならではの創薬を、そして名大発創薬の新しい潮流を生み出してみませんか。研究への意欲にあふれ、創薬への大きな夢を抱えたみなさんと共に、名大創薬は世界を駆け抜けます。(フォトギャラリーへのリンクはこちら)