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Laboratory of Molecular Microbiology,Nagoya University

細胞寿命の制御機構

1.Ecl1 高発現すると分裂酵母の経時寿命を延長する新規タンパク質 の発見 

 分裂酵母には各種ストレス情報の伝達に関わるMAPキナーゼとしてSty1(別名Spc1とも呼ばれる)があります。Sty1は高等生物のp38やSAPKと同じ仲間に属します。私たちはsty1欠失株が示す増殖定常期での生存率の低下を多コピーで抑制する因子をスクリーニングする過程で、小さなDNA断片を発見しました。
 当初、このDNA領域に遺伝子は存在しないと想定されていましたが、私たちはこのDNA断片から80アミノ酸からある小さなタンパク質が発現することを見いだしました。このタンパク質こそが、高発現すると分裂酵母の経時寿命を顕著に延ばす原因であることを突き止め、Extender of Chronological Lifespan(経時寿命延長因子)の頭文字を取ってEcl1と名付けました。
 現在、Ecl1は核局在を示すこと、グルコース情報の伝達に関わるPka1経路と関わること、分裂酵母が対数増殖期から定常期へと移行する際に、一過的に発現が増加することなど興味深い現象を見いだしています。現在、なぜEcl1を高発現すると分裂酵母が長生きするのかに興味を持って懸命に解析しています。


2.Ecl1と類似した因子 −Ecl1ファミリー の発見

 

 前述のEcl1の働きを解析する際に、Ecl1をなくした細胞の経時寿命を測定したところ、野生株と同じでした。そこで、Ecl1と機能が重複した因子がまだ分裂酵母に存在するのではないかと考え、類似因子の検索を行いました。その結果、Ecl1とよく似たタンパク質をコードする領域をあと2カ所見いだしました。この遺伝子領域にも当初遺伝子は存在しないと想定されていましたが、私たちはEcl1とよく似たタンパク質が発現することを見いだしそれぞれEcl2, Ecl3と名付けました。Ecl2、Ecl3も高発現すると分裂酵母の経時寿命を延ばします。これらよく似た3つ子のタンパク質が協調・役割分担をして寿命の制御に関わっていると予想しています。
 また、Ecl1と構造及び機能の類似したタンパク質は、出芽酵母にも存在する事を見いだしています。現在までに、これらEcl1と類似した因子群(Ecl1ファミリー)は、酵母やカビなどの真菌類にその存在が認められます。私たちはこれらEcl1ファミリーが新しい経時寿命の制御因子であると考え、解析を進めています。
 

3.長生き酵母の発見

 

 分裂酵母は、液体培地で培養すると培養時間が進むにつれて死んでいきます。私たちは、長い期間培養しても死なない変異株酵母(これを長生き酵母と呼んでいます)を見つけました。ある培養条件で野生型の酵母と長生き酵母を培養し、それぞれ99%が死んでしまうまでにかかる時間を調べたところ、長生き酵母は野生株の約2倍の期間を必要としました。これをヒトにたとえると、ふつうの人が80歳まで生きるとすると長生き変異によって160歳くらいまで生き続けることになります。このような興味深い変異株を多数分離し、解析を進めています。最近、この中の1つの変異株について原因遺伝子を突き止めることに成功しました。


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