東大・阪大との共同研究成果がプレスリリースされました!

【プレスリリース】
再生医療向け幹細胞培養のプロセス設計をデジタル化
――数理モデルに基づくデザインスペースを実験的に検証――

田中健二郎先生、竹本悠人先生(研究当時・名古屋大学医学部特任助教)の「画像解析×細胞増殖」のデータがデザインスペースシミュレーションのための重要なパラメータとして機能することが実証されました!

Simulation_DS

【プレスリリース】
名古東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻の杉山弘和教授と林勇佑助教、廣納敬太大学院生(研究当時)らによる研究グループと、名古屋大学大学院創薬科学研究科の加藤竜司准教授、田中健二郎助教の研究グループ、大阪大学大学院工学系研究科の紀ノ岡正博教授らの研究グループは、共同研究により、再生医療向け間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell: MSC)(注1)の培養プロセスを対象に、品質を満たす運転条件であるデザインスペース(Design space: DS)(注2)を決定するための新規アルゴリズムを開発し、その実験的検証に成功しました。

近年、製薬産業ではDSに立脚した医薬品製造が重要視されています。しかし、MSCの培養プロセスは生きた細胞を対象とする複雑現象であり、従来の実験的探索に依存したDSの特定が非常に困難でした。一方、MSC培養プロセスのDS決定において、数理モデルを用いた手法が有用であることが明らかにされてきましたが、得られたDSの実験的な検証が不十分であるという問題がありました。そこで本研究では、物質収支に基づく物理モデル(注3)と、モデルパラメータの統計学的な予測区間(注4)を用いることで、細胞増殖の動的特性と変動性を同時に考慮したDS決定を可能にする新たなアルゴリズムを開発しました。さらに、シミュレーションを通じて特定されたMSC培養プロセスのDSの妥当性を実験的に検証することに成功しました。

本アルゴリズムにより、デジタル空間においてDSを特定することができ、試行錯誤的な実験に依存しない迅速かつ効率的なプロセス設計や幹細胞製品の上市への貢献が期待されます。

本研究成果は、2025年5月8日(日本時間18時)に学術誌「Communications Biology」のオンライン版(オープンアクセス)で公開されました。

名古屋大学HP:プレスリリース

【ポイント】
◆ 再生医療の重要な細胞源である間葉系幹細胞の培養プロセスを対象に、品質を満たす運転条件である「デザインスペース」を決定するための新規アルゴリズムを開発しました。
◆ 物質収支に基づく物理モデルと、モデルパラメータの統計学的な予測区間を用いることで、細胞増殖の動的特性と変動性を同時に考慮したデザインスペースを特定し、その妥当性を実験的に検証することに成功しました。
◆ 本アルゴリズムは、シミュレーションを通じたデジタル空間でのデザインスペース決定を可能にし、迅速かつ効率的なプロセス設計や幹細胞製品の上市に貢献します。

【用語説明】
(注1) 間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell: MSC):生体内のさまざまな組織に存在する幹細胞で、自己複製能をもち、骨や軟骨、脂肪などへの分化能や免疫調整能を持つ。再生医療の重要な細胞源として期待されている。
(注2) デザインスペース(Design space: DS):品質を確保することが立証されている入力変数と工程パラメータの多元的な組み合わせ。医薬品規制調和国際会議の品質に関するガイドラインQ8(R2)で定義されている。
(注3) 物理モデル:物理・化学・生物学的な原理に基づいて記述されるモデルを指す。一般的に微分方程式を用いて表現され、対象の挙動を十分に理解している場合には、高い信頼性と優れた外挿性を持つ。ただし、対象の理解が不十分な場合、物理モデルの構築自体が難しくなることがある。
(注4) 予測区間:サンプリングされた母集団から、将来の観測値がある確率で含まれる区間を推定したものを指す。

【研究費】
本研究は、AMED再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(QbDに基づく再生医療等製品製造の基盤開発事業)の「ヒト細胞加工製品の製造に向けたQbDに基づく管理戦略の構築と新たな核となるエコシステムの形成(課題番号:JP20be0704001)」(代表:紀ノ岡正博)の研究として行われたものです。